2018/05/28 ブログ 文部科学省のダンス必修化の狙いと現場の状況を解説
平成20年の学習指導要領改訂により、中学校第1学年及び第2学年においてダンスは必修になり、第3学年では選択して履修できるように定められました。
小学校では表現運動系の領域が以前から必修であり、これと合わせて12年間を通じ、より連続性を持ったダンス教育が行なわれるようになったのです。
ダンスをすることで子どもの成長にはどのような影響が期待されているのか、そして実際にはどのような影響が与えられているのか。文部科学省がダンスを必修化したことの狙いと、実施後の教育現場の状況について解説します。
自分に適した運動を見つけることがダンス必修化の狙い
文部科学省が唱える保健体育科目全体としての目標には、「心と体を一体としてとらえる」ということがあります。
身体を使って、ある感情や精神を表現するというダンスの特質は、この点において正確にその目標と符合するでしょう。
また、多くの領域の学習体験をすることで自分に適した運動を見つけられるようにするという実践的な狙いもあります。
仮に球技やマラソンが苦手だからといって、必ずしもすべての運動が不得意だというわけではないでしょう。ダンスなら好きだと感じる子どももいるかもしれません。
そうした意味で、ダンスを含む、それまで選択単元であったすべての領域が必修化されました。
学習指導要領におけるダンスは「創作ダンス」「フォークダンス」「現代的なリズムのダンス」の3つから構成されており、その中から選択して履修するようにとされています。
創作ダンスの狙いはイメージの適確な表現
創作ダンスでは、多様なテーマの中から自分の表現したいイメージを捉え、それを身体によって、時に即興的に変化をつけながら、ひとまとまりの構成を持つものとして表現することが求められています。
多様なテーマとは、たとえば日常的な動作や身の回りの事物、心の中に思い浮かべるものといった題材であり、その中から表現したいイメージを掴み、変化を伴う動きをつけながら「はじめ―なか―おわり」を持つ構造物に練り上げていくことが目指されます。その過程では、生徒たちの創造性が養われることでしょう。
フォークダンスの狙いは伝統的な踊りの特徴や由来を理解すること
フォークダンスというと輪になった男女が順々にパートナーを換えながら踊る様を思い浮かべるかもしれませんが、フォーク(folk)とは単に「民族」といった程度の意味の言葉であり、たとえば日本の阿波踊りやソーラン節などもこれに含まれます。
さまざまな国の古くから伝承されてきた踊りを学ぶことで、性質の異なるタイプの踊りの特徴を理解することが期待されます。またそのことは、地域ごとに異なる文化や歴史を知ることにも繋がるでしょう。
外国のフォークダンスには生徒たちが協力・交流することを求められるものも多く、みんなで楽しく踊ることによって、それらが長く民衆に踊り継がれてきた理由を実感できるはずです。
現代的なリズムのダンスの狙いは全身でリズムの特徴を捉えること
学習指導要領では、「リズムの特徴をとらえ、変化のある動きを組み合わせて、リズムに乗って全身で踊ること」が目標であるとされています。
流行のポップアーティストの楽曲やヒップホップなど、生徒たちの関心度の高い曲目を用いて、体幹部を中心に全身でリズムを取りながら自由に弾んで踊ることが推奨され、生徒たちは踊ることの楽しさや爽快感を知ることができるでしょう。
さらに体の各部位の動きに変化をつけながら踊ることで、音の動きとマッチした体の動きを身に付ける感覚が養われます。
ダンスの教育の現状と課題
ダンスの必修化はメディアでも大きく報じられ、中でもとりわけ注目されたのが「現代的なリズムのダンス」でしょう。
今風のストリートダンスが学校で教えられるようになるという印象を多くの人に与え、実際に生徒たちの関心も集まり、多くの学校がこのダンスを選択しました。
しかし教育現場において、とりわけ現代的なリズムのダンスをめぐっては問題が生じているのも確かです。
教員の指導力に対する不安
ダンス必修化を定める新学生指導要領の完全施行は平成24年のことであり、ダンスを自身の学習体験として持たないという教員は多いです。ヒップホップなどの特定ジャンルに絞っていうならば、経験不足は尚の事でしょう。
そのため生徒の手本になることが難しく、多くの教師が指導方法に関して不安を感じています。
またダンスは他の多くのスポーツと違い、勝敗や優劣が明確に定められるわけではないため、生徒を評価する上でも困難が生じることになるでしょう。
「現代的なリズムのダンス」の解釈にばらつきがある
根本的なものとして「現代的なリズムのダンス」とは何かという、その解釈をめぐってはばらつきがあります。
これをヒップホップのようなストリートダンスと理解している人は少なくないです。
実際、文部科学省の出版する「学習指導要領解説」にも「ロックやヒップホップなどの現代的なリズムの曲で踊るダンス」という記述が見受けられ、またダンス必修化の進んだ背景には、社会におけるダンスへの注目の高まりがあり、その際のダンスとはやはりヒップホップを始めとするストリートダンスが念頭に置かれたものであるのは確かです。
したがって、ヒップホップを取り入れること自体は間違っているとは言えません。
仮にヒップホップを教えることだとして、今度は指導方法にいくつかのばらつきが生じることになります。
まず考えられるのは実際にアーティストが踊っているのと同じ振り付けを模倣させるような指導方法です。その場合、踊りの定型表現を覚えることが目的になるでしょう。
また曲全体の振り付けというよりは、特徴的なステップを個別に習得させる方法も考えられます。それらを組み合わせることで、生徒たち自身に創作させる方向性で授業を進めることができます。
あるいはヒップホップをその歴史や精神性から学ばせるという方法もありえます。この場合は即興性や自己表現が重要なテーマになり、となると必然的に既存の振り付けを教えるような指導方法とは理念として反することになります。
解釈の統一と方法の確率が課題
学校ごとに多少、授業内容の異同が生じることは仕方ないですが、理念レベルで相反するというのは好ましい事態だとは言えません。
また「現代的なリズムのダンス」を現在流行する特定ジャンルのダンスの指導ととらえた場合、個々の教師の力量差による授業レベルの高低が如実に現れることになり、それは由々しき問題でしょう。
やはり実際に特定のジャンルのダンスを身に着けたいのならば、ダンススクールに通うことが望ましいです。
こうした問題の原因には学習指導要領の記述の曖昧さと、それが招く解釈の不統一があります。
あくまで体育の一単元であることを踏まえた上で、誰もが平等な教育を受けられるよう、解釈を統一させ、具体的な指導方法を確立させることが喫緊の課題と言えるでしょう。
学校の授業はダンスの楽しさに気付くきっかけに
心と体の統一や自分に適した運動の発見を目的として、ダンスは必修化されました。
しかし現状としては、現代的なリズムのダンスの解釈の不統一を原因とした指導方法のばらつきが生じてしまっています。
学校の授業は特定ジャンルのダンス習得を目指しているものではないため、指導方法の改善が期待されるのは確かです。ですが、まずは授業を通してダンスに触れることで、多くの子ども達がダンスの楽しさを知るきっかけになってくれたらいいですね。
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